5人が本棚に入れています
本棚に追加
第1章:僕の告白。
[拝啓 僕の愛する君へ
愛してるなんて一度も口で伝えたことないですね。
僕は君の知っているとおり凄くシャイでマヌケでドジで意気地なしです。
『愛してる』なんて今だから言えることなのです。
生前に『愛してる』なんて言って君のその後の人生まで捉えてしまってはと中々口に出来なかったのです。ごめんなさい。
急にこんな手紙が来てさぞかし驚いたことでしょう。驚かせてしまって申し訳ない。
これは遺書みたいで、そうでないような物です。
《遺書》って堅苦しいイメージがあるのでやはり手紙とします。
お元気ですか?
笑っていますか?
それとも枕を濡らす日々を送っていますか?
涙の日々だったら、僕が側にいることができないのが悔しいです。ごめんなさい。
思い返せば僕は君に謝ってばっかりだね。
前置きはさておき、本題です。
誠に勝手で、傲慢さは承知でありますが、
僕は君に物語を贈ります。
これは僕が君のために書いた物語です。]
その手紙は彼の死から一年経ったある日、私宛に届けられた。
ー
彼は事故死だった。
五月の台風が近づいた雨が強い日だった。
彼は仕事を終えて、車で家に向かっている途中にスリップした車と正面衝突。相手の車に乗っていた若い夫婦は一命をとりとめたが、彼は頭を強く打った衝撃で血管が破裂、全身打撲で救急車が着いた時には意識不明の重体だった。その後心臓の音は止まってしまった。懸命な心肺蘇生が行われたが、彼が息を吹き返すことはなかった。
私は、その時会社で残業をしていた。
警察から携帯に連絡があってすぐに向かったが、心の中ではまるで何のことを言っているかわからなかった。
警察署に着くと、既に泣き叫び崩れる義理の母の姿が目に入った。
私はすぐさまお母さんの身体をさすった。
だけど何が起きているのかわからなかった。
『小林夏樹様のご遺族様でよろしいでしょうか。』
二十歳ぐらいの若い女性の婦警官が私に尋ねた。
『はい。』
『こちらへ。』
義理の母を警官に預け、その女性警官の後をついて行った。ある部屋の前で立ち止まった。女性はドアを開けて、中に入るよう言った。
私の脚は震えていた。
進んではいけない気がした。
そこに行ったら戻れない気がした。
喉の奥から何かがせり上がってくるような切迫感がひどい。呼吸が浅くなり、息が上がって苦しくなった。額から汗が垂れた。
最初のコメントを投稿しよう!