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その言葉に俺の幼馴染は器用なことに、泣きながら笑って余計なお世話だと俺より先に下に降りて行った。
その後ろ姿には聞こえないように。
「…本当に、間に合って良かった」
あの時は手遅れだった。
俺にとっても思い出したくない記憶を遡る。
あの場所で見た光景は今でも目に焼き付いていて離れない。
心の中にずっと悔しさや、憎悪がこびり付いている。
今だって千紗をあんな目に合わせた奴を殺したい程憎んでいる。
下手したら本人の千紗よりも。
だけどそれ以上に、救えなかった…そんな後悔がずっとあった。
なのに。今日もし、あの時追いかけなかったら?そう思ったらぞっとする。
俺はもう……。
「千紗…もっと頼れよ、俺を」
千紗に頼られれば、俺はいくらでもそれに答える。
千紗になら甘えて、頼って欲しい。
「…だけど、あいつより俺に心を許してくれてたんだよな?」
こんな時に考える事じゃない…そう分かってるはずなのに。
あの時、パニックになっていた千紗は俺にだけ触れさせてくれた。
それが不謹慎だと分かっていても、俺を浮かれさせてしまう。
「…これは、また栞にからかわれるな……」
また熱を持ち始めた顔をあの幼馴染に見られればどうなるか想像がついてしまう。
(もう少ししてから降りていこう…)
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