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孤軍奮闘とばかりに力仕事をしていた圭が、腰に手をやり軽くさすりながら身体を伸ばす。
「そろそろ来てもいい頃なんだけどなぁ」
そう言いながら「まったく、俺も歳だぜ――腰がいてーぜ」などと、口の中でぶつぶつ呟き玄関の方を見ている。どうやら男性の助っ人が来るようだ。
「遅くなりました」
「やっと来たかー、槙原。助かったぜ!」
低く落ち着いた声と共に現れたのは、圭が勤める会社の後輩、槇原良介だ。
圭はおどけた仕草で目を眇めると、正面から彼の両肩に手を乗せて大袈裟に歓迎した。
大男が二人もいれば、作業も進む。
おばさんも、「これで安心ね」と二人を見上げて笑っている。
豪快な物言いに反し、都会的で甘く端整な容姿を持つ圭の身長は185㎝。
一方、硬派で男らしい内面と、精悍な美貌を合せ持つ槇原の身長は圭より5㎝程低い。
どちらも痩せ型だが、カメラマンという職種柄重い機材を担ぐ筋肉質の槇原に比べると、デスクワークの圭の方が若干細く見える。
圭の隣に立つ陸に気付いた槇原は、徐に腰を屈めて目線を合わせ、穏やかな口調で話しかけた。
「久し振りだな、陸。元気そうで良かった」
「はい、元気です。圭が腰を痛そうにしてるから、早く手伝ってあげて下さい。僕じゃダメみたいで……」
15歳とはいえ同じ男として力仕事に参加できないことを少し恥ずかしく思っていたが、自分の非力を充分理解していた陸は、潔く槙原に頼む。
「そりゃ大変だな、急いで手伝おう!」
クスッと笑いながらそう返事をした槙原は、陸の頭に軽く手を置きグシャグシャと髪をかき混ぜた。その後、軍手を嵌めながら小走りで圭の元に行き、慌ただしく家具を車に乗せ込むなどの力仕事を始めた。
槙原は未だに陸を子ども扱いする――つい数日前に中学を卒業したというのにのに……。
そんな槇原の言動に陸は複雑な思いを抱いていたが、個人的な思いを表に出すのは傍迷惑で我儘なことだから、と――沸き上がる感情の種を、そっと心の中に仕舞い込んだ。
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