第十章〈後編〉

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「陸、愛してる……」 「あぁぁ――良、さん……」  裸でベッドに縺れ込んだ二人は、互いの身体の隅々を(まさぐ)り合う……とにかく、離れていた時間を取り戻したかったのだ。  片時も離れたくない。  そんな切実な願いは、触れ合う素肌からダイレクトに体温や心音を通して互いの心にじわじわと浸透する。  大切な陸を隈なく愛し、とうとうその中に――誰にも明け渡したことのない無垢な陸に、ゆっくりと槙原自身を沈めた。 「……大丈夫、か……んッ――」 「……りょう、さ…ん……?」 「…あぁ……感動、してる……。陸の、なか…あったかいなぁ……」 「……ねぇ…、動か、ない、の?……」  何のアクションも起こそうとしない槙原に、陸は一抹の不安を感じていた。  だが。しかし――  陸と繋がったまま静かに目を瞑っている槙原の表情は、多幸感に溢れていて驚くほど穏やかだった。それを目の当たりにし、陸は『何も言うべきでは無い』そう考えを改め、心の底から槙原の好きにして欲しいと願った。  どのくらい経っただろう。  時間にすれば、ほんの数秒かもしくは数十秒の事だったのかもしれないが、陸にはそれがとても長い時間に感じられた。 「……陸――、有難う。生きていて、本当に良かった…いま、俺は幸せだ……」 「……良、さん」 「そろそろ動くぞ。陸、ちゃんと俺に掴まってろ」 「うん……。あ―――ッ、アッ。良…さん…んんっ……ああぁ――」  槙原は徐に腰を引き、奥深くに沈めていた槇原自身をギリギリまで抜いた。  そして次の瞬間には、再びゆっくりと陸の最奥を目指し腰を進める。  陸の全てを味わいつくし、臓腑の全てを熟知しようとでもいうような……。そんな槙原のセックスは陸の身体を最大限に慮りつつも翻弄し、なによりも心を存分に満たしてくれた。  徐々に槇原の動きが速くなる――同時に槙原は、陸自身を擦り立てた。  内と外。同時に責め立てられた瞬間、陸は絶頂を迎え、その絶頂に導かれるように槙原も陸の中で弾けた。  左足を庇うと、どうしても動きがぎこちなくなってしまう。    そこで槇原は足に負担をかけない体勢を陸に乞い、陸を自分に(またが)らせた。初めてづくしの陸にとって、羞恥が先に立つ体位であることは充分承知している。  しかし……、槙原は純真さと艶やかさを併せ持つ陸の表情を見ながら、もう一度陸と愛し合いたかったのだ―― 「アアッ――、りょ、りょう…さ――ンンッ!」 「…ああ――、最高だ…上手いぞ、りく――んっ…」 「どうしよう…さっき、より――あああぁ――…」 「……深いな。怖いか? 陸……はぁ…、陸、陸…愛してる――」  槇原は陸の細腰を両手で固定し、下から何度も突き上げる。  陸は両手を槙原の発達した胸筋に乗せ、揺さぶられる自身の身体を必死に支えた。 「はああぁ―――!」 「陸―――……ッ!」  槇原は、途中から無我夢中で陸を求めていた。  脳の一部には、陸を気遣う気持ちを残していたつもりだったが、それでも初めての陸には激しすぎたかもしれない。  どうにも抑えが利かなかった。  放心状態で横たわる陸の、汗や体液を温めてきたタオルで拭ってやりながら槇原は優しく声を掛ける。 「…陸…陸……。平気か?」 「うん、有難う。平気……ん? 少し痛いかな。でも、気持ち良かった。セックスって、相手の気持ちが伝わってくるものなんだね。感動した――」 「――気持ち?」 「うん。良さんが、どんなに僕のことを愛してくれているのか。それが、身体中から…んんっ……良、さん?……」 「陸、陸、陸………愛してる…離したくない……離れない…絶対! いいよな?」  陸の言葉に感極まった槇原は、陸をきつく抱き締め言葉を尽くす。  苦しそうに身じろぐ陸は槙原の腕の中でさめざめと泣き続け、そのまま二人は穏やかな眠りに引き込まれた。
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