第十一章

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 陸が――そんなこと(・・・・・)を考えていたなんて……。  これこそが正に、青天の霹靂(・・・・・)である。    愛する俺の陸(・・・)が、自分の感情を素直に話してくれるようになったことは、大変に喜ばしい事だと、常日頃から槇原は思っているし、心から大歓迎している。  勿論、槇原としては、陸が伝えてくれる思いには誠実に向き合いたい。いつでも、そう考えている。  しかし――いま、この場面で陸が素直な心情を吐露していることに対し、かなり狼狽えている自分を鑑みるに、それは矛盾した考えであると自覚せざるを得なかった。 「陸……? それは、今日じゃなきゃ…ダメなのか?」  あまりの衝撃に、槇原の声は若干上ずっていた。 「急ぐことじゃない、とは思うんだけど。でも……」 「……。前向きに、検討させて頂きます」  槇原は、懇願するように畳みかけた。が、しかし―― 「えっ? 本当に? ホント? 僕、これから準備してくるね!」  完全なる陸のミスアンダースタンドだ。  日本語の曖昧なニュアンスが恨めしい――否、それは責任転嫁だ。自分の意気地の無さが問題なのだ。分かっている、そんなことは。 「ちょ、ちょっと待て陸! いま俺が言った事の意味、分かってるのか?」 「だから、準備してくるよ? 良を慣らす(・・・)準備だよ?」  陸は、人生の半分以上を英語で生活してきた。  結論を明確に示さなければ、正確な理解は望めない環境で育ってしまったのだから、そこは槇原が丁寧に伝えるべきである。  分かっている、分かっているが―― 「ちょっと、待て。待ってくれ、陸! 俺は、検討する(・・・・)とは言ったが、OKとは言ってないぞ?」 「――だって……。それって、Almost O.K.ってことでしょ? 違う? それとも、NGって、こと……?」  陸の表情が落胆の色に染まっていく…… 「違うぞ。考える(・・・)って事だ。少し、時間をくれっていう意味だ」 「……え。そうなの? 日本語って難しいな……。そうか。ダメなのか……」  陸の希望。それは、同じ男として決して看過できる内容ではない。  このままでは、一生陸はチェリーボーイ、すなわち童貞のままで終わってしまうのではないか、という心配なのだ。 「ダメではないけど、今日は、ダメだ……」  陸にとっては急転直下だろう。  ぬか喜びで、余計に陸を落ち込ませてしまった。  可哀想だと思う。  しかし…、自分にも時間が欲しい(・・・・・・)のだ。  頼む。理解してくれ、陸―― 「じゃあ、いつ? いつなら大丈夫なの?」 「それは、また、追々(おいおい)……」  煮え切らない自分が情けない―― 「日にち決めてよ! 良らしくないよ、そんな言い方……」  確かに自分らしくない。  そう、槇原だってわかってる。  それでも姑息にはぐらかそうとする自分が、急に恥ずかしくなる。 「とにかくだ。今夜は、俺に抱かせて下さい。お願いします、陸…」  心の準備をする時間を――俺にもくれ、陸。 「……良。1か月後……お願い、させて。僕、良以外とはしたくないんだ……」  俺だって、陸が別のヤツとするなんて――想像しただけでおかしくなる。 「わかった。約束する。男に二言は無い!」  そうだ、()に二言は無い――
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