終章

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 ふぅわり...    まろやかな出汁の香りが漂ってきた。  それは、緩やかに槇原を覚醒に導く。  今夜は和食のようだ。  まさか……祝いの赤飯(・・・・・)なんて炊いていやしないだろうな? 覚醒しきっていない槇原は、ベッドの中で微睡みながら薄ぼんやりとそんなことを考えていた。  俺は…泣いていたのだろうか? ――どうやら槇原は、微睡みの中で涙を流していたようだ。  枕に涙の染みができていた。 「良、りょう? …起きられる? 夕飯の準備が出来たよ」  あぁ、俺は幸せ者だ。  有難う、陸。  ずっとこんな風に、ささやかに二人で生きて行こうな。 「ああ。……すぐ行くよ」  槇原はベッドから身を起こし、剥がしたピローケースで乱暴に目元を拭った。  そして、陸の待つ温かい食卓へ向かう。  シアトルでの再会から11年目。  20歳だった陸は31歳になり、32歳だった槙原は43歳だ。  実に様々なことがあった。  苦しい時を乗り越えた先に、こんなに平穏な幸せが待ち構えていると知っていれば――  あの小さかった陸に。  肩肘を張って、如才無い(・・・・)という鎧を装着し、一生懸命生きていた陸に。  あの時、教えてあげれば良かった。 『陸、将来は誰よりも幸せになれるんだ。だから――頑張りすぎるんじゃないぞ?』  いつの日になるかは分からないし、決して急かすつもりも無い。  しかし、いつの日か――  槙原は、陸の誕生の日(・・・・)を祝ってやりたいと考えている。 ――Thank you everyone, the story came to an end. With love!
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