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初夏を迎えた東京の片隅。今日もちいさなバーに灯りが灯る。
木造りの軋んだ扉を開くと薄暗い店内には人が溢れ、カウンターにもテーブルにもつけぬ人々が多く見受けられる。しかしグラスを片手に、誰もが陶酔したように爪先でリズムを刻む。最奥のちいさなステージからは、情熱的で軽快なギターの音色が狭い店内を圧すように掻き鳴らされていた。
バンド構成はウッドベースとギターが三本、それにクラリネット。二本のギターによる独特のリズムバッキングの子気味良く軽快な音の坩堝の中に於いても突き抜けた早弾きで格段に目立つソリストは、音楽を齧った人間なら思わず耳を奪われ、かつその驚くべき指捌きに魅入ってしまう事だろう。幾ら店内が狭いとは言え、飲み屋特有のさざめきの中機械に頼らず生身の音で客を魅了するその技巧は、こんなしみったれた店には到底釣り合わないほど。客は相変わらず爪先でリズムを刻みながら、皆そのギタリストの指先に釘付けとなっている。
他のギタリストの持つギターとは違い、オーバルホールの使い込まれた古いマカフェリ・ギター。分厚いピックで切れそうな程強く弦を弾く度、硬く尖っていながらも深い響きを持ち何処か暖かみのある独特の音が狭い店内に放たれる。
しかし客の視線を独り占めする、草臥れたキャップを目深に被ったそのギタリストは、切れ上がった目尻を細め左後ろのクラリネット奏者へ視線を流す。即興のギターソロからクラリネットソロへと移り変わる一瞬のタイミングを合わせようとするアイコンタクトとは思えない程その鋭い眼光は攻撃的で、咥え煙草もさる事ながら、お世辞にも態度が良いとは言えない。
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