あしあと

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北畠さんが初対面の人とホテルに行くような人間、というのは単なるウワサではなく紛れもない事実だ。 なぜそう言い切れるかといえば、誘われて行ったのが俺自身だからだ。 ちょうど1年前、今日と同じ新年会の夜のことである。 つまり「北畠さんとは新年会で話してそのあとSNSでやりとりしただけ」というのもウソになる。 事実としては「新年会」と「SNSでのやりとり」の間に「ホテル」が挟まってくる。 (なんであんなことになっちゃったんだろ……) 俺はテーブルの下でスマホを操作し、彼とやりとりしていたSNSを久しぶりに開いた。 やりとりは新年会の2カ月後、2月頭でぷつりと途絶えている。 たった1度寝ただけの関係だ、2カ月も話題があっただけ上出来かもしれない。 それなのに俺は、1年前の出来事をさらっと受け流すことができずにいる。 なぜなら俺はゲイでもなんでもなくて……。 あの人との夜があったせいで、当時付き合っていた彼女とも別れていた。 あの人のせいで、抱かれる喜びに目覚めてしまったわけだ。 (……くそう!) 3列向こうの席に座った北畠さんは相変わらず男前で、遠目に見ているだけで動揺してしまう。     
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