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あしあと
「先輩、あそこにいるかっこいい人誰ですか?」
隣に座る女性社員が俺のひじをつついてくる。
ここは都内にあるホテルの宴会場。
今日ここで俺たちは、会社主催の新年会に参加していた。
新年会は関東にある各支店合同のもので、当然知らない顔も多い。
「かっこいい人?」
何十人もいる中から、それだけの情報で人を判別するなんて無理な話だ。
「3列向こうの通路を歩いてる、背の高い……」
それでようやく、俺の目はその人物を捜し当てた。
遅れて来て席へと進んでいるその人は、遠目にも分かる整った顔立ちをしている。
彼の横顔を見た途端、心臓が変な音をたてた。
「ああ、あの人は……」
俺が口を開くより先に、2つ隣の席で年配の女性社員が声をあげる。
「知らないの!? 横浜支店の北畠さん。有名人だよ。営業成績1位で、去年も表彰されてた」
「えー、あんなかっこいいのに仕事までできるんだ……」
「あの顔だから営業成績もいいんでしょ。私、あの人に勧められたらなんでも買っちゃう。……あ、村上くん、北畠さんと知り合いだよね?」
その女性社員に聞かれる。
「知り合い? 去年の新年会で話して、そのあとSNSでちょっとやりとりしただけ」
「ちょ、先輩……! 紹介してくださいよ」
隣の後輩社員がまた俺のひじをつついた。
「あの人はやめておいた方がいいと思うけどな……」
「どうしてですか?」
「いや、結構遊んでるっていうか」
「……えっ?」
「初対面の人とホテルに行っちゃうような……あ、聞いた話だよ? 単なるウワサ」
ついウソをついてしまった、それも2つも。
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