4月

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 マッチングを終え、四人のキャラクターが敵と対峙する。五枚のカードが展開され、三十秒で選択するようプレイヤーに迫る。ツバサは頬杖をつきながら、ガチャで引き当てたばかりのカードを選択した。カードの効果が順に処理されていく。スマホにつながったイヤホンから、ゲームのBGMとSEが外の音をかき消していた。  三月で最後の昼下がり。客は誰一人としていない。個人経営の小さな古本屋で、彼は店番を無理矢理押し付けられていた。  カードの処理が終わり、最後に攻撃が入る。弱点属性を突いているにも関わらず、与えたダメージは微々たるものだった。こちらの行動が終了し、敵側の手番となる。強めの防御を撒いたはずだったが、全員の体力が半分近く減少した。  カードが補充され、二度目のターンが回ってくる。カードを選択しようとした時、ふと顔をあげた。栗色の髪をした少女が、物珍しそうに本棚を眺めている。知らない子だった。年齢はツバサと同じくらい。高校生であることに間違いはないだろう、と推測する。制服なら確実だったが、着る必要のない日に制服を身に着ける変わり者はそう居ない。  残り五秒でカウントダウンが始まる。ツバサは慌ててカードを選択するも、タイムアップで自動選択されてしまった。彼はため息をつき、舌打ちをする。少女がツバサを見たようだったが、気にせずスマホを見ていた。 「あの……」  二度目の攻撃が始まる。強力な魔法と剣戟が叩き込まれるも、敵はピンピンしていた。敵の行動が始まる。 「あの! すいません!」  カウンターの向こう側に立つ少女を見て、ツバサは片側だけイヤホンを外す。赤いパーカーにスカート、スニーカーといった出で立ちで、栗毛の髪は丁寧に結わえられている。ツバサがもう一方のイヤホンを外すと、少女は言った。 「ツバサ君だよね。久し……ぶり……」  少女はぎこちなく笑いかける。敵の攻撃を受けキャラクターの体力が半分以上減った。 「覚えていないかな。私、昔一緒に遊んでた、詩織、です……」  ツバサのキャラクターが敵の猛攻を受けて膝をつく。暗くなった画面には、ゲームオーバーの文字が浮かび上がっていた。
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