6月

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 廊下を疾走し、真っ先に下駄箱へ向かう。筋トレするソフトボール部員を避けて、靴箱の間を一つ一つ覗きこむ。誰もいないことを確認すると、落胆と安堵の入り混じったため息をついた。 「すまん、清水。渡会さん見なかった?」 「え、えぇ?」  清水は五十回目の腕立て伏せを終え、床にへたり込む。彼女は後輩達を脇目で見ると、首を横に振った。 「教室にいなかった?」  今度はツバサが首を横に振った。清水は休憩を宣言する。疲労困憊になった後輩たちは、次々と崩れ落ちた。 「しおりんに何か用?」  清水がツバサの顔を覗きこむ。つい目を逸らすと、口ごもった。 「まぁ、ちょっと……」 「ふぅーん」  いやらしい表情だった。何もかも見透かされたような気がして、思わず後ずさる。清水がふっと笑いかけた。 「まぁ、見つけたら連絡するわ。てか、スマホ使えスマホォ! 連絡先くらい知ってただろ!?」 「完全に忘れてた……。すまん、あざっす!」  ツバサはスマホを取り出し走り出す。彼の背に向かって清水が叫んだ。 「しっかりしろよ、クラス委員!」  ツバサは「おう」と答えて、足早に歩きながらラインを開いた。上から三番目のトークグループをタップする。ツバサと詩織だけの個人チャットだ。最も新しいメッセージは昨日で、遊びに行く計画を立てているところだった。  素早くフリックし、短いメッセージを送る。しばらく見ていたが既読は付かない。ツバサはスマホをポケットにしまうと、校内を駆けだした。  北棟の一階から四階までシラミ潰しに探して回り、渡り廊下を超えると、南棟を四階から一階へ駆け抜ける。濡れた廊下に何度も足を囚われながらも、必死になって探し回った。  三周目に差し掛かろうとした時、スマホが震えた。溝口だった。ツバサは感謝の言葉を送信すると、抜け漏れていた体育館へと急いだ。 「渡会さん」  校舎から体育館脇に繋がるトタン屋根の下で、顔を埋めて座りこんでいた。手にはスマホを持ち、ミッキーのカバーが着いている。修学旅行で買ったものだ。  ツバサは呼吸を整えると、彼女の傍で片膝をついた。
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