4月

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 四月一日の始業式の日、葉桜から降り注ぐ桜吹雪の中を自転車で疾走する。土手から急な坂を下り裏門より校内に入ると、去年まで止めていた位置に自転車を押し上げた。  間もなく朝の鐘が鳴る。  ツバサは慌ててカバンを取り上げると、人だかりの後ろからクラス分けをのぞき込んだ。去年と同じく一組から七組まである。ツバサは二組だった。彼はそれだけを確認すると、急いで校舎へと向かった。  スリッパを履き、階段を駆け上る。そしてチャイムが鳴ると同時に教室へと飛び込んだ。早くもできていた仲良しグループが解散し、各々の席へと戻っていく。ツバサは番号順とは名ばかりの、五十音順で決められた自分の席を、教室の中央付近で見つけた。 「よう、ツバサ。遅かったな」  前の席に座る溝口がニヤニヤしながら言った。ツバサはカバンの中身も録に出さずに、机の脇にあるフックに引っ掛けた。 「今年も溝口と同じクラスか」  まぁな、と言って溝口は大きなメガネをずりあげる。彼とツバサは昨年も同じく前後の席だった。二人は席が近いということと、好きなゲームが共通していたこととで、すぐに打ち解けたのだった。  ドアを潜るようにして担任の太田が現れる。彼は教室角にある教師用の机に荷物を置くと、紙の束を手に教壇へと立った。 「新学期おめでとう。この後体育館で始業式だから、体育館シューズを持って番号順で並ぶように」  太田は黒板の上のアナログ時計を見上げると言った。 「少し時間があるし、先に紹介しておこうか。渡会、おいで」  後ろから椅子を引く音が聞こえた。ツバサは思わず息を呑む。教室中の注目を浴び、黒板の前に立ったのは、昨日見た栗毛の髪を持つ少女だった。 「渡会、詩織です」  詩織はまばらな拍手に包まれながら、小さくお辞儀をした。
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