6月

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「お化け屋敷」 「はい、お化け屋敷」 「逃走中」 「はい、逃走中」 「映画」 「はい、映画」  次々と挙がるアイデアをツバサがテンポよく捌き、詩織が整った文字で記録していく。アイデア出しを始めて、わずか十数分の間に黒板が白く埋まった。 「はい」  清水が手を上げる。気づいたツバサが発言を促す。 「暴露大会」  彼女は笑って答える。ツバサは「書かなくていいよ」と詩織に伝えると、次の案を求めた。 「案は全て書き出すんじゃなかったのかぁ!?」 「悪意しか感じないから嫌なんだけど……」  ツバサはため息をつきながら、渋々書くように促す。  十月初めにある学祭に向けて、どのクラスも準備が始まりつつあった。例年通り行われる予定で、二日間の文化祭と、一日の体育祭を合計し、三日間かけて実施される予定だった。全学年、全クラスが参加し、学外の参加者も招き入れられる。コート紙を使用したパンフレットが配布されるほどで、各クラスとも相当力を入れていた。 「TRPG」 「はい、ティーアールピージー」 「e-sports」 「それはちょっと……」 「スマブラ」 「はい、スマブラ」  教室の一部から突っ込みが上がる。慌てて謝り、黒板に目を向ける。最後の案は詩織がちゃんと弾いてくれていた。  予定の時刻になったため、募集を締め切る。黒板に書かれた案を紙に写す間、太田が写真に収めた。  引き続きツバサと詩織の二人が仕切っていく。次に決めるのは学祭実行委員だ。クラス委員と同じく男女一人ずつ。例の如く、まず手始めに立候補者を募った。 「誰もいないかぁ」  詩織がつぶやいた。五分が過ぎた時、一人の手が上がった。 「うちやるわ」  清水だった。教室が騒々しくなる。続けてもう一人、手が上がった。 「俺も」  溝口だ。ツバサが黒板に二人の名前を書きこむ。詩織が教室中を見渡し、異論無いことを確認する。他に立候補者もいないと判断すると、脇に退き、後のことを溝口達二人に引き継いだ。
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