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梅雨の明けない日が続き、月が替わった。七月の初日は偶然にも晴れ渡り、早朝からセミが鳴きだしている。
ツバサは寝ぼけ眼を擦りながら、身支度を済ませる。重たいカバンを持って一階へと降りていく。まだ早朝とういうこともあり、誰もいない。普段通り、一人で朝食を済ませた時、母親が起き出してきた。
「今度、三者面談あったでしょ」
「あるよ」
「日付決まった?」
彼女は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。軽く振って、椅子に座る。そして音を立てて蓋を開けると、一気に飲みだした。
「まだ決まってない。わかったら言うから」
パンをトースターに入れながら、彼女は生返事する。そんな後姿を一瞥し、ツバサは家を出た。
朝のホームルームで、太田は一枚のプリント用紙を配布する。夏期講習の申込書だ。彼は今、ボールペンで名前を書くように言った。
「やぁりたくねぇ!」
「どうせ学祭の準備で学校に来るから……」
悲鳴を上げる溝口に、詩織がフォローを入れる。どこかで一匹のアブラゼミがジリジリと鳴いていた。
「早く書け!」
遅々として進まぬ申込書の回収に、太田が声を張り上げる。彼は申込書を半ば強引に回収すると、古典の教師と入れ替わった。
現代語訳した文を席順に読み上げていく。ツバサは席順から逆算した文を読み返していると、活用形の抜き打ちテストが始まる。十個の枠だけが印刷された解答用紙を配布され、黒板に動詞を書いていく。ツバサは一つ目の枠に『下二段活用』と書きこんだ。
答えが発表され、自己採点を行う。結果、五割の正答率だった。
授業も間もなく終わるころ。思い出したのかのように、期末考査の結果を返却し始めた。何とか赤点を回避し、ホッと胸をなでおろす。席に戻り、溝口の答案を覗きこむ。彼は素早く体で隠した。
「見んなて」
「なに、赤点?」
彼は小さく頷く。ツバサはそれ以上追及するのをやめた。
二人の元に、詩織が戻ってくる。点数を聞くと、彼女はあっさり教えてくれた。
「まぢか、渡会やべぇ!」
「そんなことないよ」
彼女はほんのりと頬を赤らめ、目を伏せる。そんな彼女がツバサには眩しく見えた。
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