7月

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 青い空に、白い雲。そして燦然と輝く太陽が容赦なく照り付ける。ツバサは水着を着て、冷たい水の中に立つ。水を両手でかき分けながら歩いていると、派手な水しぶきに襲われた。彼は慌てて顔を拭う。どうせ溝口だと思っていたが、犯人は清水だった。  一学期最後の体育はプールだった。同時に今年最後のプールでもあることから、授業時間すべてが自由時間となっていた。  コースロープ越しの攻撃が、容赦なく襲い掛かる。ツバサはゴーグルをつけると、たまらず逃げ出した。  プールは男女で半分に分けられている。さすがの清水も、コースロープを超えてまで追って来ることはしなかった。水を滴らせ、梯子を上がる。締め付ける帽子とゴーグルを外すと、体が急に重たくなったように感じた。  太陽で熱せられたプールサイドに座り込む。コンクリートのプールサイドは焼けるように熱かったが、風が吹くたびに寒さで身震いした。プールの対岸では体操服の詩織の姿があった。彼女は楽し気に遊ぶクラスメイト達を、ひとり静かに眺めていた。  大きな音と共に、派手な水しぶきが上がる。溝口が飛び込んだらしい。顔を出した彼に向かって、体育の教師が声を張り上げた。彼は悪びれなく泳ぎ出す。  揺れる水面が陽の光を反射し、明るく輝く。小さく瞬く光は、ツバサの目を鋭く射貫いた。小さな光の幻影が目に焼き付く。それらは青や赤に色を変化しながら、輝く羽虫へと姿を変えた。強く目を閉じ、指で瞼を抑える。輝く羽虫はしつこく視界を飛び回り、数を増やして、透明な歯車へと移り変わった。  歯車はギリギリと頭の中で回りだす。プール独特の塩素の匂いが鼻を突き、それが回転を一層加速させていた。ツバサは片手で頭を押さえる。水の音が頭を抜けて、痛みへと変わっていく。今までに無い強い痛みに、激しい吐き気を催す。  ツバサは体育の教師に一言告げると、誰にも気づかれることなく更衣室へと戻っていった。
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