“温度”が足りない

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“温度”が足りない

 久しぶりに帰ってきたお母さんは、病院の白いベッドに居たときよりも、色がもっと白くなっていた。  ちゃんと寝室のベッドは綺麗にしていて、いつお母さんが帰ってきても寝れるようにしていたのに、何故かお母さんはベッドを使わずに仏壇の前に敷かれたお布団の上に寝かされていた。 「おかあ……さん……おかえりなさい……」  恐る恐る声を掛けてみた。けれども、僕の言葉に瞼すらぴくりとも反応をしてくれない。  ただこんこんとお母さんは眠り続けている。  そっと触れてみたお母さんのほっぺたは、ひんやりとしていた。  頑張ったねと褒めてくれたときや、辛かったねと慰めてくれたときに、ほっぺたをすりすりとしながらお母さんは僕の頭を撫でてくれた。ぎゅーっとしながら頭を撫でてくれた。  そのとき感じた温度がそこにはなかった。  ああ、そうか。  お母さんが眠り続けているのは、その“温度”が足りないんだね。  僕はだから、お母さんを起こすための“温度”を探し集めることにしたんだ。
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