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僕はといえば燭台を傾け
救世主の死を地で行くような場面を
ただただ興味深く見つめていた。
と――。
黒いローブを着た胸の上で
逆さ十字がかすかに上下していることに気づく。
「息してるよ……」
「え?」
「ルカ……生きてる……」
薫が顔を上げるが早いか。
「うぁっ……!」
ほんの一瞬
苦痛に顔を歪めた薫は
「……薫お兄様?」
突然意識を失ったようにルカの胸の上に倒れ込んだ。
一体何が起こったのか。
分からない。
分かったのは倒れ込んだ薫と入れ違いに
ルカがむっくりと身を起こしたこと。
手元に何か黒い物体を持っていて
その口元には隠しきれぬ笑みが浮かんでいたこと。
「会いたかったよ。薫くん……」
「ルカ!薫お兄様に何したの?」
ルカは恍惚として薫の鳶色の髪を撫でながら
ついでのように僕をちらりと見やった。
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