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もう一度溜息をつく。そこで、俯き弁当を見つめる圭佑の視界の端に人影が映った。反射的に顔を上げる。いつも休み時間になると旧校舎のこの場所へとくる人物。陰気な場所なので、他の生徒は近づかない。顔を上げた先にいつもの姿が現れれば圭佑の表情が明るくなる。
だが、それも束の間で、その人物の暗い表情につられるように圭佑の表情も沈んでいった。弁当をコンクリートの脇に置き、立ち上がると名前を呼びながら駆け寄る。
「…彰人、どうした…。」
尋ねる言葉とは裏腹に何があったかなんて分かっている。彰人も圭佑と同じ、弱者であり敗者であった。圭佑も彰人も虐めの被害者なのだ。虐める方が勝者だという訳ではないが、人の尊厳を奪い屈辱を与え相手に敗者たる敗北感を与える側だ。制服は汚れ、殴られたかした身体が痛むのだろう。緩慢な動きで圭佑の方へと歩む。
圭佑が駆け寄れば、苦笑いを浮かべる彰人。その目には僅かに涙が滲んでいたが、圭佑は気づかない振りをした。大丈夫だとでもいうように圭佑の肩をぽんぽんっと叩く。
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