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森の中の開けたーよく日の当たる場所に、幾つかの石が花に囲まれて立っていた。それを見つめる男ードラゴンがいる。別段知っている名前が書かれているわけではないので、特に感傷に浸ってたりはしていない。ただその石に刻まれた文字列を眺めていた。
「お兄さん、どうしたの?」
幼い声に振り返れば、想像と違わぬ幼女が自分を見上げていた。大きなくりりとした目をきょとんとぱちくりしている姿に、僅かに目を細めるレオン。その様に現実感を感じられず、少し呆けてしまっていた幼女は更に質問を重ねる。
「おばあちゃんのお知り合い?」
幼い問いかけにいいや、と首を振って否定した。不思議そうな幼子に努めて優しく声を掛ける。
「その首飾り、素敵だね?」
褒められて嬉しいのか、ニッコリと満面の笑みを咲かせた幼女が弾むように答えた。
「素敵でしょ!なくなったおばあちゃんがくれたの!お守りです、って!」
胸を張り自慢げに言うのを見て「じゃあ、大切にしないとな」と頭を撫でた。不思議に思った幼女であったが、撫でられるのは不快では無いのでされるがままにしていた。
さああ、と強い風が吹いて、幼女は反射的に目をぎゅっと瞑る。目を閉じていたのは僅か一秒にも満たなかっただろう。幼女が目を開けると、最初に視界に入ってきたのは薄い桃色の花弁だった。一枚、二枚とひらひら宙を舞って美しい。もう一度風が吹いて、足元の花弁が舞い上がる。
その花弁に魅せられて、幼女は男が消えていることに暫く気付けなかったのであった。
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