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いつの間にか車内のスピッツは止まっている。はっと目を開き車の外を眺めると、田んぼを抜けてもう山の中を走っていた。
ときどきトンネルがあって、それを何度か抜けると小さな集落があった。地方のどこにでもある、ガソリンスタンドと、小さな電器屋、郵便局とスーパーだけがあるような町だ。
「なあ、運転はせんの?」
「え? しないけど」
「ここらの道、知らんみたいじゃけぇ」
小さいころは親に乗せられてよくドライブもしたけど、段々家族のお出かけもなくなり、免許を取ってからは自分で乘ることもなかったので道なんて忘れてしまった。
家族でドライブしていたころ、知らない町をみては、どんな暮らしがあるんだろうと想像していた。こういうことを考えるのは久しぶりな気がする。
今走っている、この何もないように見える町にも、私みたいな気持ちを抱えている人がいるんだろうか。
そして、こういうことを考えるのを、私はいつから辞めてしまったんだろう。
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