2、宮島の海

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 彼は元々東京近辺の都会育ちだけど、彼女は東北の方の田舎から出て来た子らしい。東北の町はどんなところだろう。彼女も、地元がつまらないから東京に出たいと思ったのかな、とはじめて相手のことを想像してみる。  私たちが知り合ってからも、ちょくちょく彼は東京に戻り彼女と会っていたようだ。彼がこちらへ来てしばらく経ったある日、また居酒屋で神妙な顔で打ち明けられた。 「彼女、東北に帰りたがってた。やっぱ一人で東京はさみしいんだって」  そりゃそうだろうなと思った。彼女は彼がいるから、なんとか東京で踏ん張って来たんだろう。彼がいない東京なんて意味がない。その気持ちは分かる。私も、彼みたいな存在がなくて、こうして地元に帰って来たんだから。彼みたいな人がいたら、私だって東京に残れたはずだ。
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