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3、安芸灘の海
「あ、道の駅。寄ろっか」
悟は私の答えを待たずにウインカーを出すと、駐車場に入った。目を上げると、平屋の建物の前には特産品のぼりが建っていて、外に置かれたテントの中でも花や野菜が売られている。
車から降りると、建物の横の、奥まったところに湖があるのが見えた。日差しが熱い。
自販機の前にはテントの下にベンチが並んでいたが、どれも家族連れやおじいさんおばあさんで埋まっている。私はレモンティを買って湖を眺めに行った。悟もコーラを片手についてくる。
「どうして海に行こうと思ったん」
どうして今日なのだろうと思った。いつも悟が誘ってくるのは飲みに行くときくらいなのに。ハワイの海を見せられたその日に、海に誘われるなんて。
「いやぁ。なんとなく」
「なにそれ」
「じゃなくて。なんか海を見ておきたいなって」
「見ておきたい? あんた近々死ぬの?」
「あー、実は転勤になるかもしれん」
悟の言葉に、持っていたレモンティが揺れた。
「どこに?」
「東京。グループ会社が出来て、何人か行くんじゃないかって噂」
「地元密着の会社じゃなかったっけ」
「そのはずなんだけど」
無意識だろう、悟はコーラをちゃぷちゃぷと緩く振った。
悟もここからいなくなるのか。私を置いて。
湖から、シラサギが飛び立つ。あとには波紋が広がって、それもやがて消えた。
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