3、安芸灘の海

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 橋の手前で悟は車を止めた。小さな駐車場でトイレ休憩を済ませて、少し周りを歩く。橋の向こう側には、これから渡る島と海が穏やかにたたずんでいる。あのハワイの海よりも、透明に近いような青だった。 「なんでここは嫌なん」  悟が急に聞いてくる。 「ここ?」 「地元。いつも言いよるじゃん」  地元が嫌だと悟に直接言った覚えはない。悟はここしか知らないのだから、めったなことは言えない。だけど悟はなんとなく察していたんだろう。ここを見下しているような私の態度を。 「嫌な思い出がたくさんあるから」  私は、自分の思い出のせいにすることにした。実際そうだ。昔の思い出が、ここをより居心地悪くしているし、外に出たいと思わせた。 「嫌な思い出って?」 「ほら、中学校とか」  悟は、小中学生のころの私をよく知っている。そのあとは疎遠だったし、会社での私を悟は知らないけど、根っこの記憶を共有しているのは確かだ。 「そんなに悪かったっけ」 「悪いっていうか、みじめだったよ。悟も助けてくれなかったよね」 「助けが必要だなんて思いもせんかったし」  切り取り方の違い。そう思う。同じ記憶を共有していたって。その中身は少しずつずれている。  どういう場面でシャッターを切って、どこを切り取って、どこを残しているか。それは人それぞれだ。同じ時間を過ごしたからって、同じ事実を覚えているわけじゃない。  悟と私の見た景色はちょっとずつ違ったのだろう。中学で私が苦しい間も、悟は結構楽しそうにやっていた。私だって、小学校から一緒の悟にそんなこと気づかれたくなかったから、悟と話すときにはなんでもないようなふりをしていた。
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