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悟は時間通りに車でやってきた。ご自慢の、マツダのなんとかという新車だ。焼き鳥のときもその話ばかりしていて、私は閉口してしまった。車になんて興味ないのに。
「よっ。今日は機嫌いいな」
運転席の窓を開けて、悟はにかりと笑った。ちっとも機嫌なんてよくない。
まぁ、悟がそう言う理由もわからないでもない。私は今、リボンが長く垂れ下がった麦わら帽子に、黄色い花柄のブラウス、青くて細身のジーパンといういで立ちだ。おまけに胸元にはピンクのサングラスをぶら下げている。見るからにご機嫌でハッピーそうな恰好だ。
気分だけでも、ハワイぶってやるんだとやけくそな気持ちだった。
「悪い?」
それだけ言って、勝手に後部座席に乗り込んだ。
「は? こういうときは普通、助手席に乗るんじゃないん」
悟が振り返って、不満げな声を上げる。
「助手席嫌いだし」
「だからって、俺はお前の運転手かよ」
「いいから、さっさと出発」
命じると、悟はやれやれとアクセルを踏み込んだ。
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