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帝釈天のおみくじ
正月三日になった。元日と二日は、暖かい日差しがさしていたが、今日は朝から冷え込んで粉雪が舞いはじめていた。
こんな日にまた出かけるの、と後ろから声がかかった。母の声は幾分娘の心情を察する響きが感じられたが、花凛(かりん)はそれに応えずに玄関ドアを閉めた。
父にいたっては新年の挨拶の言葉をかけてもまともに返事すらしてくれない。祐樹との結婚を反対している意思の表れだと思うと花凛は悲しかった。
祐樹との待ち合わせは御茶ノ水。午前中、神田(かんだ)明神(みょうじん)にお参りしてから浅草寺(せんそうじ)に行き、最後は柴又の帝釈天に参拝する計画だ。昨日も一昨日も都内の有名なお寺や神社を回った。
――お正月は初詣のはしごをしましょ――
花凛は意気込んで祐樹に提案した。おみくじの『大吉』を二枚揃えて父親の目の前に突きつける。おもむろにおみくじを読み上げる。
(二人の出会いは運命的なものです。最高に相性が合う結婚で幸せになるでしょう)
大吉の文面はほとんどこんなもんだ。
花凛の父は神社仏閣巡りが好きで参拝後にはよくおみくじを引いている。この手で陥落しないはずがない。
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