帝釈天のおみくじ

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 降り止まぬ雪が恨めしかった。仲見世通りの路面の雪は踏み固められ滑りやすく、祐樹が優しく手を取ってくれなければ歩けないほどだった。おみくじの大凶の文字が白い雪片に刻み付けられているようで、花凛の髪やコートの肩に掃っても掃っても纏(まと)わりついた。  年末に父に打ち明けたら二人の結婚に猛反対だった。反対する理由は簡単だ。二人の父親が兄弟だから祐樹とは従兄妹(いとこ)同士にあたる。近い血縁だからダメだという。幼馴染(おさななじみ)が愛を育てて結婚するのが何で悪いんだという気持ちだった。彼だって思いは同じだ。彼の性格は穏やかで優しい。幼いときから「お兄ちゃん」と呼んで慕っていた。従兄妹でも法的には結婚できるのに。せめてもの救いは父は彼を悪く言うことはなかったことだった。    以前は二家族で一緒に旅行するなど仲の良い兄弟にみえたのに祖母が花凛の中学一年のときに亡くなって以来、急速に関係が悪化した。どうも遺産問題が原因らしいが詳しい事情は知らない。  祖母はチエさんといって孫の花凛をことのほか可愛がってくれた。七五三やひな祭りやお誕生日にはいつも近くにチエお祖母さんの笑顔があった。もちろん花凜もチエさんが大好きだった。花凛のアルバムにはお洒落なチエさんとのスナップ写真が何枚もある。 「ほら空を見てごらん」  祐樹が俯(うつむ)いている花凛の耳元で囁(ささや)いた。空は白く見通しが悪かった。目を擦(こす)った。     
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