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花凛はおみくじの結果が大吉だったら素直に嬉しいし、大凶だったら笑い飛ばしてしまおうと考えていた。そう思うと安心して連日の疲れと睡魔が襲ってくる。祐樹の左腕に思いっきり身体を寄せた。
「何か腹減ってきたなあ」
祐樹は眠そうな花凛の肩を強く抱き抱えた。
「寒いし眠いし何か温かいお茶でも飲みたいわね」
花凛は虚ろな眼差しで応えた。
「参拝前に草団子食べようよ。熱いお茶啜りながらね。寅さん縁(ゆかり)の団子屋さんの前だし」
店の前には有名な草団子と寅さん饅頭と寅さん三笠山などが陳列棚に並べられていた。
店の中は参拝帰りと思われる人たちで混み合っていた。長椅子に腰を下ろして草団子とお茶を注文した。
ちょうどそのとき杖をついた一人の老女が入ってきて花凛の隣に座った。目が合った。花凛は微笑みながら会釈をした。おばあさんの眼差しは温かかった。
「この店はとっても古いお店なのよ。亡くなったおじいさんと初めてデートしたのが帝釈天なの。そう初詣よ。この店でお団子を食べたのよ。六十年も前の話」
おばあさんは独り言のように話しはじめた。
「そのときね。結婚して三十年目の初詣もここに来ましょうと約束しましてね。ええちゃんと二人で来ましたよ、三十年後にね。それで二人とも長生きして三十年後もまた来ましょうと約束したのよ。それが今日なの」
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