快適な環境は、進捗に対し他の物事の停滞を産む。

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「このご遺体、ヤバいんだよ……。バットとかで殴られた跡じゃ無い。と、言うか、ダメージが殆ど骨まで行ってる。折れては無ぇけど。」 「撲殺体だもんな。」 「でもヤバいんだって。不定形で、アザの形から武器の判別が分かんねぇ。ご遺体の方と揉め事になって、一発ブチかましたら死んじまったモンだから、その偽装に色んな物で殴ったとかなら、まぁ分かる。動転した素人なら、そんな事もするかもしれねぇ。」 死んだ人間殴っても司法解剖で分かるからあんまり意味がねーんだけどな、と同期は手を止めてご遺体を見る。 「……でもそれなら、死に起因した明確な一撃が、何処かにあるだろ? それに明確な一撃を偽装する為なら、偽装の内出血もデカくなる。でも見た感じ、それが無いんだ。 ちゃんと検死を通して無ぇし俺の目測だから、正しくは無いだろうけどよ。どのアザも、明確な一撃になってねぇと思う。ガチで、このアザの全部で、亡くなってる。 拷問みてぇだ……つーか、どうしたら生きてる人間をここまで執拗に殴れたのか。この犯人やべぇよ……。」 相当な痛み、というのを訂正し。壮絶な痛み、という事にする。それに見た所、拷問だったんじゃないかという同期の推測も頷けなくもない。 被害者は、裸だ。何も身に纏っていない。非武装も此処に極まれり。もしも凶器を突き付けてきた犯人に、抵抗の意思が無い事を示せと脅されていたのなら。 「あ、あった。」 「何が。」 「猿ぐつわの跡。」 「……されてただろうな。これだけ殴られて悲鳴の一つも無いのは、なぁ。」 青アザで見えにくくなりながらも、頬に擦過傷。俺達は被害者をどう殺したのかと言うよりは、どう殴ったのか、という所が気になっていた。納得する為の一つの要素に、その擦過傷は成り得た。 「で、結局。この青アザは、何で出来た? 骨まで行くダメージで、不定形なアザ?? なんだこれ。」 「威力も殺傷能力も形も中途半端な凶器だ、としか。だから検死は出来てねぇからさ、素人にも分かる事しか言えねぇぞ。俺達に出来るのは証拠品の押収だろ……。」 ジップロックの様な証拠品袋がパチンと音を立てる。部屋に落ちていただけのゴミかもしれなくても、あるだけ全てを回収せねばならない。たった今、被害者の唇に付着していた黒い付着物も綿棒で押収してみた。部屋に持ち込まれてしまっていた、ただの土にも感じる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加