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「にしても、寒い……。」
「一旦外に出てきたらどうだ? カイロ配ってるぞ。」
「そりゃあいいな。貰ってくるよ。」
「ついでに集めた証拠品も、一旦車に持ってけよ。」
「おう。」
「ホント、寒いなぁ。」
玄関を超えたビニル手袋越しの手に吹き掛けた息は白く、その光景だけで気温を知ろうという気力を削いでいく。防寒したい。防寒したいが職業柄、あまり嵩張る服を着るのは憚られるのだ。
なんせ服を沢山着るという事は、数多くの繊維くずを現場に持ち込むという事。捜査に失態が無いよう懇切丁寧な付着物処理を施してから現場に脚を踏み入れるとしても、その原因となり得る物を増やすのはどうにも気が進まない。車両に収めた証拠品の中にミスがありませんようにと思いながら、話に聞いたカイロの配布場所を探した。
「おーい! そこの鑑識の奴、こっち来い! 最初っから現場に篭ってた奴だろ、お前。ここの家主さんが、気を利かせて全員分のカイロを用意して下さった。暖かいぞ。」
「おお! あれのことか。有難く頂くっす。……あ、もう結構暖かいんすね。」
「みんな要るだろうって家主さん、開封済みの貼らないカイロ全部ガサガサ振っちまったんだよ。そこまでされるともう断れないからなぁ。」
「ご好意に預かりまーす!」
手袋を一旦外してからコンビニ袋いっぱいのカイロを一つ取って、指先に当てる。暖かい……。
「家主さんが第一発見者でしたよね?」
「そうだな。血縁関係は無い。現場の貸家の借主が今回のホトケさんだ。寒いんでカイロ買ってきてくれって被害者に頼まれて、家を訪れた時にはもう……。」
「じゃあこのカイロ、元々持ってたから使ったんですね。でもそりゃそうか、第一発見者に買い物なんて、行かせられませんし。」
俺を呼んだ新人と思しき見覚えの無い男はそう言うと、ちらりと第一発見者を乗せている車を一瞥して溜息をついた。
「それは俺達が行かせねーよ。それに、家主さんボロ泣きだぞ。あんな状態で何処に行けるんだよ。」
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