快適な環境は、進捗に対し他の物事の停滞を産む。

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この男、新人だろうに中々に豪胆な性格をしている。これが何度目の事件なのだろうか? いつか大物になりそうだ。ただ俺が相手でなければ誰もがキレそうな口調だけは治した方が良い。 「……借主さんと家主さんの関係、良好そうですね。」 「…………相当の恨みがあるんだろうな、犯人には。アザまみれ、だぞ? そりゃもう、メッタメタに殴った跡だったろ。絶対に犯人、捕まえるぞ。」 「分かりまし、熱っつ!?」 「ん? 大丈夫か? 何があったかは知らんが。」 突如感じた冗談抜きの熱さに、俺はカイロを落とした。 「ありゃ、漏れてたのか?」 「漏れ……?」 「どっか穴が開いてたんだろ。ほら。中の砂が漏れたんだよ。」 「このご時世にそんな不良品が、」 あれ、ちょっと、待てよ? 手に付着した黒い砂が、先程押収された証拠品の中にあった気がする。カイロを広い上げ、穴を探せば確かに一箇所、ぷつりと穴が開いていた。 「現場に家主さんが到着した時に、落ちた?」 「何がだ。」 「この、カイロの中身です。さっき持ってきた証拠品に、黒い付着物があるんですよ。」 「…………なんだって?」 いや、だとすれば可笑しい。カイロって空気中の水分に反応しない様に袋に入ってるだろ? 穴の開いてた不良品だとしても、そっちの袋に溜まるから外に流出する筈が無い。 「あれ? 家主さん犯人じゃね? いやでも、あれ? 気の所為……か?」 「……………………どうしたよ。」 家主さんが犯人だとして。カイロを袋から開けて、被害者と対峙した理由はなんだ? だって、いつからカイロが開封されていたのかハッキリとしていない。少なくとも、俺がカイロを貰った時には全てのカイロが開封済みだ。つまり、事件発生当時に開封済みだったかもしれない。 開封したカイロの利点? 「おい、そのお前が言ってる黒い付着物の鑑定、今すぐ出来るか?」 「え?」 「お前の想定が合ってるなら、断定するのは簡単だろ?」 「いや、でも違うかもしれませんし。」 「違わなかったら、どうなんだ?」 違わなかったら。被害者に付着していた物が、カイロの中身だったら。この手の中にあるカイロから、零れ落ちた物だったら。それが事実だとしても、俺には確定的な推理は出来ない。おつむが生憎足りていない。 ただ、目の前に佇んでいる人間は何処か確信めいた眼をしていた。 だったら、訊いた方が速い。
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