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「あの。カイロで、人を殺せると思います?」
「さぁ。だが数があれば、殺せるんじゃないか?」
「数。」
「例えばだな。沢山のカイロを袋に入れる。開封はしててもしてなくても良いが、している方が変形しやすいだろう。」
「それで?」
「それだけだ。」
「はい?」
「確定した形が無く、銃刀法違反にもならない鈍器、ブラック・ジャックの完成だ。袋の中身は小銭だったり砂だったり。カイロで作ったんなら砂鉄と炭で出来てるだろうし、大層な威力があるだろう。そんで使った後は、皆に配ればいいのさ。カイロの良さは暖かい事だからな。」
俺はカイロを証拠品袋に入れる。あの家主の号泣には、凶器が分散していく事に対する安心感もあるのではないかと思うと、もうこのぬくもりに休息を求める事は出来なかった。
「俺のも要るかい、証拠品。」
「そりゃ全員分、回収するべきではありますけど。見逃して欲しいんですか?」
「寒いからな。」
「図太い神経してますね……。」
「褒め言葉をどうも。それに丁度、鉢植えの肥料が切れててな。使い捨てカイロの中身って、肥料にもなるんだよ。」
調べ終わったカイロもみんな欲しいぐらいだ、そう快活に、やたら愛想良く笑われれてしまえば、不謹慎な笑いではあるかもしれないが自分の肩の力が良い具合に抜けた気がした。
「で、まだ自白してないんすね。」
「らしいんだなぁ、これが。今も丁度取調中だよ。」
数日が経った。黒い付着物はカイロの中身だという事が鑑定の結果判明し、最早家主の黒は明確。しかし、家主は『私ではない』の一点張りらしい。
「それで、鑑識の奴が何しに来たんだ。」
「鑑定の終わったカイロの中身を、お届けに。」
「は?」
「欲しいって言ってらした刑事さんが居たんすよ。肥料になるらしいっすよ。」
「はーそうかい。あ、知ってるわそれ。お袋がやってたなぁ。じゃあ大丈夫な奴なのか? そのカイロは。」
「大丈夫な奴、って?」
「カイロにも、肥料に出来るやつと出来ない奴があんだよ。カイロの外装の袋に書いてあるんだ。これは肥料に出来る奴ですよーってな。」
「え?」
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