第1章 散歩道にて

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この公園には戦前から、けやきの木が立ち並ぶ並木道がある。道幅が八メートル位の砂利道の両側に、等間隔で七本ずつ植えられており、並木道の長さは三十メートル程にもなり、地元の人々は散歩道として利用している。 戦前は並木道の先に小さな神社があって、公園と神社を渡る通り道だったらしい。 しかし、戦時中に神社が全焼して、今では神社跡も公園の一部になっていた。 然程大きくない公園には街灯も少なく、昼間に比べて夜は、ことの外静かであった。 * * 「ちょっと、待ってよ!」順子は慌ててリードを引っ張った。 リードの先には飼い犬のポメラニアンのルビーが、早く来いと言わんばかりに急かしている。 「もう、人の気も知らないで。こっちは雑用でくたくたなんだから」 いつもルビーの散歩は、日が暮れる前に行くのだが、今日に限って学園祭の用意で帰りが遅くなってしまった。 高校最後の学園祭と言うこともあり、順子もその日を楽しみにしている。
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