第2章 聖龍帝と赤龍王

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悲しいかな、龍形人の多くは、この臭いがわからない。 コジーたち、四本腕の種族は、数少ない臭いをかぎ分けられる者たちである。 「親父さん、器を!」 城島がコジーに、器の用意を促した。さっきまで大鉢が置かれていた所に、小さめの丼鉢【と、呼ぶかどうか、知らないが】、ズラッと並べられた。 その丼に城島が、タップリとスープを張っていく。 そうしておいて、頃合いを見計らい、グラグラ沸き立っている寸胴鍋から、素早く麺を引き揚げ、軽く湯切りをして、丼の中に入れていく。 そして、麺の入った丼を、コジーたちがカヤクを入れて、見映えを整えていく。 「いやあ、ラーメンって言うのか?園遊会の料理の試作で食べたが、旨かったな!」 コジーが、感嘆の台詞を洩らす。 「普段は小麦何て、箸休めにもならない!って感じの連中が、お代わりの大合唱だから。」 コジーがしみじみ、回想する。 「今でも時々、御馳走になるが、あの園遊会の時の味が、忘れなれない。」 園遊会たけなわな頃、聖龍帝がステージの前に現れた。 真っ白なマントに、真っ白なターバン。 マントの下は、シックな黒を基調とした、詰め襟のジャケットとスラックス。 聖龍帝を前に、城島は満面の笑みで、今までの丼とは違う、一回り多きな丼を用意して、其処に半分の量のスープと、半分の麺を入れて、 「一岩スペシャル、御待たせしました!」 そう言って、聖龍帝に恭しく、差し出した。 聖龍帝は其れを、無言で受け取り、箸を掴むや、勢いよく手繰りこんだ! 元々聖龍帝は、豪快でワイルドな性格で知られていた。 他の龍王達とは、ちょいと異色で、気取った処がない。 それでも威厳は、損なわれていない。 そんな聖龍帝が、何故か赤龍王と反目して、気まずい事になってしまっている。 しかも代替わりして、先代の赤龍王とは、別人なのに。 豪快に、ラーメンを掻き込む、聖龍帝。 其れを見つめる城島が、 「先生も、人が悪いなあ。」 と、ボソッと呟いた。
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