6人が本棚に入れています
本棚に追加
神山と屋台のオヤジが、空を飛んでいる。
いや、正確に言えば、すごい高さから、落下しているのだ。
落下しながら、神山の頭は今起こったことを、確実に捉えていた。
ドン!と言う炸裂音と共に、強力な力で屋台の鍋の中に、引っ張り込まれたのだ。
そして屋台のオヤジと神山は、鍋の底を抜けて、いきなり空中へと投げ出されていた。
意識がハッキリしてくると、最初は慌てたが、直ぐに落ち着きを取り戻した。
神山は学生時代、スカイダイビングの経験があった。その時の感覚が、今の状況を冷静に分析させた。
ハッキリ言って、落下速度が遅い。
スカイダイビングの時、講習を受けたのだが、成人男性が自由落下する速度は、頭から垂直に落ちたとして、大体300キロちょっと。体を水平に保つと、空気抵抗を受けて、230キロちょい。
ところが現在の落下速度、どう多目に見ても、100キロメートル無い。
それよりなにより、一緒に落下している屋台のオヤジが落ち着き払って、目の前に浮いているのだ。
しかも胡座を組んで、ずっと何かを考えている。
「あのう、もしもし?」
神山は、目の前で胡座を組んで、考え事をしている、屋台のオヤジに、声を掛けた。
オヤジは相変わらず、仏頂面で考え込んでいる。
「あのう、俺、神山と言うんですが‥‥‥。」
「知ってるよ!」
野太い声で、屋台のオヤジが返事をした。
「北神十蔵代議士の処に、出入りしている、東京ポコペン日報の、新米だろう?」
屋台のオヤジは、やっと閉じていた目を開いて、神山の顔を見た。
「俺は城島 一岩【きじま いちわ】。見ての通りの、ラーメン屋だ。」
あまりに平然としている。
スピードが出てないとは言え、明らかに落下しているのだ。其れなのに、こんな事は何でもない!と、言わんばかりの、構えである。
「城島さんは、何で彼処に?」
神山の方も、今の状況を余り理解出来ていないようで、どうでも良い事を質問している。
「何であんな処で、屋台をひいていたかって?」
都内でも有数の、高級住宅地である。
しかも広い敷地の屋敷が、建ち並んでいる。どう見ても、場違いである。
屋台なんか牽いても、客なんか来ないだろう?
最初のコメントを投稿しよう!