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生まれた土地から出たことがあるのは修学旅行と新婚旅行だけだった、みたいなかたが、たくさんたくさんいたんです。知らないひととはほとんど会ったことがなくて、関わったことがなくて、せまーい世の中で生きてきた。そこに適応していればよかった。その常識で、一生だいじょうぶだった。
ずっと長いことそうだったんですけど、時代がものすごい勢いで変化しました。いま生きているうちでいちばん高齢のひとたちの世代は、とくに、激流にまきこまれたようなものでした。こどものころはのどかな村で、大家族に囲まれ、ご近所全員はるかご先祖さまのころからずっと知り合いみたいなひとばかりの中で育ったのに、いまやこうなのですから。たぶんこのひとたちにとっては、前の東京オリンピックとか、大阪万博が大転換期でした。はじめて「外国」が身近になりました。そして、テレビが家にやってきました。遙かに遠い「よそ」のことが、いきなり、近くに、手の届くものになったのです。
誰もがみんな知り合いな狭い村だけで生きて死ぬなら、よそがどうだろうと、関係ありません。よその国、いえ、よその県、よその集落のことですら、知らなかったし、気にしなくてよかった。それでかまわなかった。わかる必要も、なかった。
でも、もう、そうはいかない。
世界はとんでもなく変化しました。
みんながみんな家族ぐるみの知り合いで一生ご近所でつきあい続ける小集団(いわゆるムラ社会)は、もう、消えようとしています。
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