最後の一冊

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本の内容など、もう暇つぶしにもならなくなっていた。 ただ機械的に、ページをめくる。これが終わったら。これをめくり終わったらきっと―――ただそれだけを思って。 本を閉じて顔を上げる時、いつも――寂寥(せきりょう)、というのだろう感情が私を苦しめる。 どうしてだろう。この場所には、喜びも悲しみも無かったはずなのに。 彼が、私にとって何だったというのだろう。ただ隣でいつも読書をしていた、それだけの人。 ただ私が勝手に、同じことをしていると信じただけの人。 もしかしたらあの人は、今の私とこそ、同じことをしていたのかもしれない。 私がただ待っているように。何か物語を探していて、それと出遭うのを待って頁を繰っていたのかもしれない。 だとしたらあの人は、最初から出て行くつもりだったのだ。 もう戻ってこない。物語を辿り終えても、隣に座っていたころと同じあの人ではいられない。
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