最後の一冊

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最後の一冊

その本を読み終えるころ、彼が隣の椅子に腰を下ろした。珍しく、本を持っていない。 休憩か、手に取るに値する本が見つからないのか。 読み終えたばかりの本が、彼好みのくすんだ色合いであることに気づいて、そっと隣へ差し出してみる。 それは自然に受け取られ、彼はすぐに表紙に指をかけた。 次の本を取りに行こうかとも思ったが、目で本棚をさらううち、隣人の読了を待つ気になった。どうせ彼には戻し場所の分からないものだ。というのは言い訳で、私はいよいよ読書に飽いているのかもしれない。 それならどうにか彼に合図して、この図書館のもう一端でも目指してみようか……。 頬杖でそんなことを考えていると、隣で椅子が動き、序盤と(おぼ)しきところで本が閉じられた。
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