最後の一冊

永遠と言う時間をつぶす道具の、内容を選ぶ必要はない。
だから今まで、本を途中で閉じたことはなかった。思い出す限り昔から――少なくとも、隣同士で本を読む私たちは。
それなのに、なぜ。
不思議に思いながら、読まないのならば本棚へ返すのだろうと、手を伸べる。もともと私が持ってきた本だ。
しかしその本は私の手に戻らず、隣の席は本と共に空になった。

くすんだ色の本と共に歩いていくその人の背中を見て――「選んだ」のだと、悟った。

「出口」まで行こうかと思った。
けれどやめた。選んだはずがない。きっと以前目を通した本だったから読むのをやめて、戻しに行ってくれたのだろう。

手元には最初に彼が置いて行った、厚みのない本が残っている。それを隣に置いて、私は新たな本を抜き出してきた。目に付く限り、一番分厚い本を。
それを読み終わっても、彼は帰ってこなかった。
返し場所の分からない本はいつまでも私の隣に残り続け、私は分厚い本ばかり選んで読み続けた。
この本を閉じるころには、帰ってくるだろうと思って。
けれど、隣に置かれた本の前に、彼は一向に戻ってこない。