最後の一冊

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経験というものを積んで、物語から再び解き放たれた人々は、以前とは別のものになる。 偶然二度見送った、あの小柄な人のように。 誰もが別のものになって、前にここで選書に費やした時間を忘れ去り、また本を選ぶのだ。前と同じ姿で、違う仕草で本棚から本を選び、違う足取りで、また「出口」へと向かう。 彼が戻っても――もう二度と、私の隣に座ることはないだろう。 いいや、私から隣に座ればいい。彼が帰ってきたら、私から隣の椅子を引いて、この本を見せて、戻すべき場所を尋ねれば……。 ああでも、私たちは互いに繋がり合うための言葉を持たない。 彼と再び会うには、この図書館は広すぎる。 それに――あの人にだって、この本のあった場所はもう、分からないだろう。 この本の置かれた席を見ても、そこを避けて、別の席につくことだろう……。
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