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「NPが足りぬ」
築30年の中古アパート。吹き込んでくる隙間風に少しだけ身を震わせながらも、この前粗大ゴミ置き場から拾ってきたコタツにすっぽりと身をおさめていると、ふと俺のはす向かいに座る女の子がつぶやいた。
「なんですか?」
俺が答えると彼女はギロッとこちらを睨みつける。ちょっと前まではこの目で睨まれると、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きができなくなるほど恐怖だったのに、今となってはそのような感情は1ミリも湧いてこない。
本当はおそらく1000歳くらいなんだろうけれど、彼女のこの世界での姿はこちらの世界で言うところの幼女とまではいかないまでも女子中学生とか女子高生のような出で立ちである。この前ウニクロでセール対象となっていた上下グレーのスウェットは彼女には少し大きいサイズだったらしい。
サラリと肩あたりまで伸びた黒髪は、魔王様とは思えないほどの清楚感を醸し出している。勇者である俺がこういうことを言うのはおかしなことかもしれないけれど、その外見はマジで俺のどストライクだった。なんつーかもう結婚してほしい。
「NPが足りぬと言っておるのだ」
魔王様が少しだけ頬を膨らませて腕を組む。
「なんですか、NPって」
「ぬくもりポイントだ!わからんのか!」
「いや、知りませんけど…」
「いいから我にぬくもりをよこせ!ぬくもりプリーズ!」
「いや、それ両方同じ意味ですから」
なんとか魔王の威厳を保とうとしているのだろう、彼女の口調も振る舞いも向こうの世界にいた時とまるで同じだ。しかし、そのことが逆に今の自分の可愛さを増長させているという事実におそらく魔王様は気づいていないのだろう。
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