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まあ、よくわからないが要は魔王様の機嫌を上向きにすれば良いのだろう。となるとここは…
「いやぁ、相変わらず可愛いですね」
「は?」
俺の言葉があまりに唐突だったのだろう、魔王様は開口した。この時点でこの作戦は失敗だったとさすがの俺も気がついたけれど、ここまできたら後には引き返すことはできなかった。
「こんな可愛い方が近くにいるなんて本当に幸せ者です、私は!」
選挙カーの上の演説者のように俺は自分の拳に力を込めた。魔王様は最初こそポカンとしていたものの、しばらくして顔をやや紅潮させるとプイとそっぽを向いた。
「…まあ、嬉しくないことはない。でもそういうのじゃない」
「ちっ、言い損じゃないですか」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
一瞬、全盛期の魔力を感じたものだから、俺は慌てて誤魔化した。あの時は仲間がいたからなんとか互角で戦うことができたけれど、今は俺一人しかいない。多分そんなことはないだろうけれど、もしもここで俺と魔王様の一騎打ちということになったら勝てる気が全くと言っていいほどしない。
気を取り直して他の作戦を考える。彼女を喜ばせるという基本的な考え方は間違っていないはずだ。だとすると、褒める以外に何か方法はないだろうか。
…などということを考えている間、俺はじっと魔王様を見つめていた。すると、またしても魔王様の頬は上気して桜色になった。
「そ、そうやって見つめられても嬉しくないからな!」
「ん?何ですか?」
俺が首をかたむけると、魔王様の顔はまたしてもキョトンとしたものになった。
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