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ボクはおもむろに立ち上がった。
「どうぞ、せめてお水を。」
やはりだ。給仕はボクが去るのを止めた。
一体、閣下はどれだけボクをここに引き止めるつもりなのか。
見えないところからボクを見てせせら笑っているのではないか。
そんな気さえしてきた。
ボクが立ち上がると、給仕はきっとまた止めに来る。
止められるよりも前に立ち去ってしまえばいいのか?出口へ向かって一目散に?
いや、なんだかんだ引き止められたりするのではないだろうか?
ご不浄にでも行くふりをするか?
いや、そんなことをするくらいなら…、いっそのこと、この閣下のお気に入りの椅子に座ってやろうじゃないか。
だいたいだ、手も触れるななんていうのは滑稽じゃないか。潔癖なのか?
ボクが座っているこの椅子と大した違いがあるようには見えないじゃないか。
なんだ?閣下はこの椅子のなにが気に入っているんだ?
そんなことを考えているうちに、ボクはどうしても目の前のこの椅子に座ってみたくなってしまった。
確かに見た目は豪華ながっちりした、いかにも高級といった、鞣し革の美しいこの椅子に。
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