美味しくなあれ

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 フライパンを用意して、火を付けると小夜子はほのかに近づかないように言いつけた。  ボールからどろーりと落ちるタネを見つめながら、フライパンに一枚試しに焼いてみる。  じゅわっと音が立ち、すぐに丸い気泡が出来るとそれが弾けるのを待った。   ほのかは踏み台から降りて、下から恐々見ている。 「踏み台から見てごらん。大丈夫だよ。面白いよ」 「平気?」 「大丈夫、手を出さないでね」  そう言うと、ほのかはそっと踏み台に足を乗せて、フライパンの方を覗き見た。  見えないようで、唸っている。  そうしているうちに、気泡が弾けて裏面の焼き色を見ると焼きすぎたのか、少し焦がしてしまった。 「焦がしちゃった」  小夜子は自重気味に言うと、すぐにフライ返しでひっくり返す。  見ていたほのかが歓声をあげた。 「すごおい」 「まだ、もう少しだよ」 「ももちゃんはね。動物の形にしたんだって!」 「動物? うちじゃ出来ないなあ」 「なんでぇ」 「道具がなんにもないし。お母さん、テクニックもないし」 「テクニック?」 「下手ってこと。とにかく、今日は丸いやつ食べて」 「はあい」  今度は不満気な返事だ。  お友達となんでもお揃いがいいのだろうが、小夜子の家事能力は人並み以下。  結局、なんでもこなす親を持ったせいで、料理やご飯に興味が持てないまま、大人になったせいだろう。  もう一枚、一枚と増やすと少しづつ上手くなるが、ホットケーキミックス粉がなくなり、六枚焼くともうなくなってしまった。  とはいえ、これをほのかと二人だけで食べきれるかは疑問だ。  不格好で色も焦げたホットケーキが皿に重ねて置かれているのを見ると、綺麗にデコレーションされて出来上がったものを外で食べた方が良いように思える。 「美味しそうだね! 早く食べよう」  ほのかの明るい声が台所に響いて、小夜子はマジかと思った。  顔に出してはいけないと、必死に笑顔を作って見せる。
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