光のプリズム

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背後から唐突に現れた男は真人の左耳にささやく。 器用に(ひるがえ)り、右耳に回り込む男は、精彩な重ね着、無造作ヘア清潔感、雑誌から抜け出したように計算されたスタイル。白い八重歯に直す気のない関西弁で、それはどこまでも後藤護(ごとうまもる)を表していた。 トレーに乗せられた定食の味噌汁と薄いお茶が、雑にテーブルに置かれることで少し零れるが、彼はそんなことはお構いなしだ。そういう類を気にするのはいつも真人である。 「向かい側に座れよ」 そう言うと真人は自分のコーヒーを向かい側に滑らせて、テーブルの反対側へ回った。 「いやいやいや、お前のために誘ったってんねんで、いつもよりしつこいんは俺の優しさや」 護はそのまま真人が座ろうとしていた席に腰を下ろす。 大阪から上京してきた護は人生最大の開放時代を迎えていた。入学当初から幾度となく他学科だぁ他大学だぁOLだぁ看護婦だぁとカテゴライズされた合コンを設定してきては真人を誘ってくる。 しかし真人が個人的に興味を持ったのは女優の卵たちとの合コンのみで、その話に乗った時は護は、蕎麦を食らっている真人に「かなりのメンクイでんなぁ」とニシシシと八重歯を光らせた。     
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