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土足厳禁の札に対し、土足で入ってくるような真似はされていない。それどころか相手は素足でもなくきちんとスリッパを履いているが、その摺り足が気に入らない場合はどうすればいいのか、いっそ立ち入り禁止の札を立てるべきか。
真人は堰を切った。
「俺は朝食はカフェラテなんだけどさ、ラテね泡立てミルク、もう2年毎朝それなんだけど。なのに今朝起きたらがっつり朝食がこれでもかってテーブルに広がってんだよ。で、親父がいうの、起きたら朝食が出てくる生活のなんてありがたいことかと、ほんと感動してるの。何年ぶりだろうねこの皿使うのってこの皿まだあったんだなとか言って涙浮かべたりさ、真人お前も食えいっぱい食えとか涙声で言っちゃったりして。や、待ってそれは二人だけでやってくれよと思いつつ、すっごいキラキラした目で親父が俺を見つめるわけよ。だから食べざるを得ないわけ。しかも……」
「……しかも?」
「……お前の想像している通り、新婚だから……俺がそばにいるのに気付かないで……あるわけよ。そういう場面が」
真人は今朝の出来事を明確に脳裏に浮かべた。起き抜けに水を一杯と思ってキッチンに向かったら、新妻の美幸と父がキッチンで抱き合っているところに遭遇してしまったのだ。慌てて忍び足で階段を上り部屋に戻ると、「朝食できたよ」と階下から声を掛けられるまで真人は部屋で喉の渇きを我慢せざるを得なかった。
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