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そして、並べられた親父感嘆符の品々。朝から、味噌汁に焼き魚に冷奴サラダに卵焼きに肉野菜炒めまで。
「真人くんには渋いかな、パンの方が良かったら言ってね、明日から洋食にできるから」
と、美幸は少し心配そうな笑顔で言う。
エプロンをつけた若い女性が笑顔で朝食を給仕してくれるのだ、こんな天国はないだろうと自分に言い聞かせるも、先日まであった「自由」がこの家の中から音を立てて崩れていくのを痛烈に感じ、ついひきつった笑顔で「はぁ、おいしいです」と棒読み。
この返事は不味かったなと思い父の顔をチラと見ると、この世の春の父はキラキラした目で真人に「おかわりはどうだ」と言い出し、つい勢いで「じゃあ」と茶碗を美幸に渡し飯を2杯平らげてしまった。ある意味俺って空気読めるじゃんと真人は思った。
そう、それだ。
読みたくもない空気を読み続ける苦痛。
いつもならスルーするだろう空気を読まなければならないこの苦痛。
「おまえ、それで腹減っとらんのか」
「俺、もう出たい家」
一週間前から徐々に始まった同居生活で、ダイニングの棚の上に造花や額が飾られるようになり、チェックのテーブルクロスが掛けられ、とうとう今朝はカーテンまで替えられていた。
心の準備が追い付かないスピードで新たな色にどんどん染められていく。
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