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「井川」  なんでこんなことをしてるのか。勿論、当然のようにそう思う。  井川は殊更ゆっくりカズイのワイシャツのボタンを外し、襟で隠れる部分を吸い上げた。 「な、井川っ、ちょ……」  押しやろうとする腕に構わず首筋を舐め回しながら脚を割り、自分の右脚を捻じ込んだ。シンクに押し付けられて逃げ場のないカズイの上体が反る。片腕を回して背中を支え、鎖骨にやんわりと噛みついた。 「い──あ……っ」  上ずった声を上げたカズイがぶるりと震える。両手で尻を掴み、持ち上げるように引きよせて、腿でカズイの股間を擦り上げる。もがく身体を抱き締め顔を上げると目が合った。上気した首筋から頬の色、濡れた眼尻。酔っているかもしれないが案外正気に見えるその瞳が、尻から腰を撫で上げながらカズイ、と呼んだら不意に蕩けた。 「や──っ」 「ボタン留めりゃ見えねえし」  囁いて頬に触れると、戸惑うように目を伏せる。耳元に口づけ、耳朶を噛み、カズイ、と囁くと溜息を漏らした。 「二次会はノーネクタイにして見せつけてやればいいんじゃねえか?」  うなじを捕まえ引き寄せて唇を塞ぐ。角度を変えて奪う度カズイは震え、井川の腕に縋りついて、甘く濡れた喘ぎを漏らした。  ワイシャツの襟を整え、シャワー浴びてくれば、と言って押しやったら、カズイは何の抵抗も見せずに離れていった。何をやってんだか、とまた思い、自虐的な気分に浸りながらソファに移動し煙草に火を点ける。銜えたところで灰皿のことを思い出し、溜息を吐きながら立ち上がって飛び散った吸殻と灰を片付けた。  仕事で腹に据えかねることがあって一日中虫の居所が悪かったから、これは一種の八つ当たりかも知れない。それとも、それもまた言い訳か。  敢えてそれ以上何も考えずに煙草を吸い終え、用を足して、用意されていた枕と上掛けを掴んで、テーブルを足で押しやりソファの横の床に転がった。ソファは井川には小さすぎるし、家主がいる以上ベッドは論外だ。  あんなことをしておいて泊めてもらうのもどうかと思うが、今更出ていくのもまたどうかと思う。  シャワーの水音を聞きながら目を閉じる。カズイの閉じた目蓋が不意に浮かんで舌打ちしながら目を開けた。井川はもう一度ゆっくり目を瞑り、眠気が訪れますようにと祈りながら溜息を吐いた。
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