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電源を入れたスマホの画面は、着信履歴とメッセージのプレビューで上から下までびっしり埋まっていた。
「すげえ」
横から画面を覗き込んで寄越した井川が銜え煙草のまま、唇の端を曲げて笑う。
「うるせえな。余計なことしやがって」
「鳴ってたら出るだろ、普通」
「出ねえよ!」
怒鳴りつけたが井川はどこ吹く風で、コンビニに行ってくると言ってふらりと出て行ってしまった。さっき見た顔はやはり気のせいだったのだろう。
もしかして気を遣ってくれたのだろうかと気づいたのは井川が出て行ったすぐ後だったが、和伊はそれから暫くの間、ぼんやりと、ライトが消え真っ黒くなった液晶を眺めていた。
メッセージのプレビューは、「大丈夫か」とか「どこにいるんだ」の連投で、他には何も書いていなかった。最後のほうは諦めたのか「連絡くれ」が数回。それから暫くしてから思い出したようにまた電話が立て続けに何本かあって、それきり連絡は入っていなかった。
和伊は子供のように抱えた膝にスマホを載せて溜息を吐き、両手で乱れた髪の毛を撫でつけた。向こうから見えるわけではないけれど、何となく。
もう一度長い溜息を吐きながら着信履歴を開いてタップすると、まだワンコールも終わっていないのではないかと思うくらい素早く原田が応答した。
「和伊!?」
「あ? ああ、うん、俺」
「よかった──」
原田は長い息を吐いた。何故そんなことを言われるのかは分からないふりをして、和伊は殊更明るい声を出した。
「何が? 今、家? いずみは? 元気か?」
「俺は家にいる。いずみは旅行のお土産渡したいって、友達と会ってる……恵子ちゃん、知ってるだろ。それより」
原田は和伊が知っていようがいまいがどうでもいいと言わんばかりに話をぶった切った。
「お前今どこにいるんだ」
「いや、どこって……友達んとこだけど」
「友達って誰だよ、さっき電話に出た奴か? 全然出ねえし、つーかスマホ電源落ちてるみたいだし、なんかあったかと思って心配したんだからな!」
「ごめん──別に何もねえから」
畳みかけてくるのをなんとか遮って口を挟んだが、原田に一蹴された。
「いや、顔見てちゃんと大丈夫だって分かるまで駄目だ。信じねえからな」
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