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井川は背が高くて、すらりとしている。背が高いと案外姿勢が悪い奴が多いのだが、井川は──原田もそうだが──姿勢がいい。
まっすぐ伸びた背、その上に乗っかっているすっきりした輪郭の顔。少しだけ斜めに物を見ているような、冷たさを感じる一歩手前で踏み止まっている雰囲気。
どう見たって、女にもてないとは思えない。例え今はフリーだとしても、その気になれば彼女なんていつでもできそうだ。
そんな男と俺がなんでお似合いなんだ、と思う。どちらかが女だとしたって、似合いだとは思えない。
ぼんやりと足元に目を落としたら、靴に汚れがついているのに気が付いた。タクシーに乗せる間際、ぐだぐだに酔った島村がよろけて和伊の足を踏んづけたので、そのときついた跡だろう。そう思ったら、島村が肩に寄りかかりながら言ってきた戯言が不意に蘇った。
「和伊はぁ、いずみちゃんじゃないほうがいいと思う!」
「──ああ?」
一瞬何の嫌味かと思ったが、島村はそんな奴ではない。案の定、酔っ払いは恐縮し切った顔で「ごめんな気に障ったらごめんな」と頭を下げ、間近で顔を押し付けているので、和伊の肩に何度も頭突きすることになった。
「あのねえ、いずみちゃんはふわふわしすぎだろぉ。原田はいいんだ、アレは包容したいタイプだからな。お兄ちゃんキャラだから、彼女がふわふわでもいいんだ」
確かに、原田にはそういう、言ってしまえばお節介一歩手前なところがある。
「でもなあ、和伊はなあ、お前は甘やかせるタイプじゃねえのよ、自分も他人もなあ。だから、いずみちゃんじゃないほうがいい! もっとこうがつーんと、ぶつかっちゃうようなのがいいの!」
「……」
「あーっ、俺も誰かに優しくされてえよう! 三国さぁん!」
憧れの女性の名前を呼んで半べそになりながら、島村はタクシーで運ばれて行った。
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