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二ヶ月ほど前の話だ。和伊の元恋人であるいずみと、所謂親友である原田が結婚した。
正直悔しさもあったけれど、二人が付き合い始めたのは和伊といずみが別れた後の話だし、どこかの知らない野郎に取られるよりはずっといいと本気で思った。
結婚式の招待状が来ないことでも傷つきはしなかった。共通の知人が多いから、興味本位で色々聞かれるのは和伊だって嫌だったからだ。
直前になって二人が直接招待状を手渡して寄越したが、それだけなら、別によかった。
「傷つけたくなかった」なんて言われるまでは。
ちゃんと祝える。喜べる。
大好きな二人の晴れの日を、どうして祝わずにおれようか。小さな嫉妬と羨望は確かにあるが、そんなのは当たり前のことだろう。それを、まるで俺が二人を恨んでいるかのように──俺を信じられないかのように。
そんなふうに腹を立て、一人で飲んで泥酔し、電車で居眠りした和伊を部屋まで送り届けてくれたのが井川だった。
原田によく似た、通りすがりの知らない男。
人間関係や他人の心の機微に取り立てて鈍感だと思ったことはない。それでも、自分が原田に何がしかの感情を持っていたなんて、井川に指摘されるまで気が付かなかった。
自分を誤魔化していたのかもしれないと考えてみたが、もしそうだったのだとしても、今更真実を知ったところで仕方がない。
いずみを好きだったことには嘘はなかった。そうでなければ何年も一緒にはいられない。
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